2023年12月で参戦したお城EXPOで「マイ花押を作ろう!」のワークショップに参加しました。日本古来から使われる”サイン”である花押。花押の歴史は長く、そして自分で作るには難しくもありつつ楽しいものでした。
マイ花押を作ろう!
ここ数年、戦国武将の残した書状にも関心が出てきて花押を見ることが多くなり、それぞれに個性があって面白く、そもそも花押ってどうやって決めるんだろう?と興味が出てきたところに「マイ花押」が作れるということで、わくわくしながら参加しました。
花押とは?
まずは花押の歴史を講師の方から教えてもらう。
花押は中国で発祥して以来1200年以上の歴史があり、「草書体」の署名が起源という。花のように見えるので「花押」。
花押は「過去の遺物」ではなくて、内閣で各大臣が署名する際に現在も花押を使っているという、現在でも通用するサインなのです。
内閣制度の概要…
講師の方の話では、クレジットカードのサインに使っている人もいるそうです!
花押を最もよく見るのが戦国大名のお手紙。戦国武将が祐筆(代筆)ではなく自分で書いたことを証明するためのサインとして花押を記しているものが残っている。
伊達政宗はセキレイという鳥の形の花押を使っていて、一揆を先導したことを詮議した豊臣秀吉に対し、「これは自分の花押ではない。自分のセキレイの花押には目が空いている!」と申し開きをしたエピソードが有名です。
日本においての花押の使い方についてザックリまとめてみるとこうなる、
花押の歴史
- 草名体 平安時代頃 本名を一字の文字のようにまとめあげた書体
- 二合体 平安時代~鎌倉時代にかけて 名前だけでなく雅号や苗字などから気に入ったものを選んで組み合わせて崩してつくった
- 一字体 鎌倉時代~戦国時代にかけて 全く名前とは関係なく、自分の好きな文字や縁起の良い文字を選んだ
- 別用体 戦国時代 もはや文字とは関係なく自分の好きな模様や符号、動物の造形などに似せた書体
- 明朝体 漢数字の「二」のように上下に並行した横線を書き、中に図案を入れた書体。ある程度「形」が決まっている。
徳川家康の花押は明朝体ですが、花押でいう明朝体は特に徳川家により使用されていて「権力の象徴」であり、徳川将軍の初代から14代までが明朝体で花押を作りました。
「思い」をサインに。戦国武将の花押
花押は「真似されない」ということも大事ですが、花押には「自分の思い」を反映しているものが多い。例えば戦国武将なら、
- 上杉謙信 「耳 為 可 亦」の文字の変形。「民の声をよく耳にして、その声を反映するべし」の意味
- 豊臣秀吉 「悉国平定(すべての国を平定する)」から「悉く(ことごとく)」の文字をデザインした
- 織田信長 平和で穏やかな国にやってくるという「麒麟」の「麟」の字をデザインしたもの
- 徳川家康 漢数字の「二」のような天地の横線の間に要素を入れる。二の間には「元康」の変形が書かれている。
家康の花押は「心に響いた言葉」を入れているわけではないようだが、家康の花押の変遷を調べてみたら、初期の花押は今川義元とデザインが似ていた!
初めての「師」であった今川義元へのリスペクトによって似たデザインを使用し続けたのかもしれません。
マイ花押を作る!
さてここからは花押づくりの作業に入る。
こちらが使用したい文字を提示して先生がどう崩していくかを教えてくれる、かと思ったのよ。
甘かった。
デザインから自分ですべてやるのです!
花押の作り方
1.文字を決める
まずは花押に使う文字を選ぶ。選び方は下記のようにいろいろある。
- 親からもらった名前で作る
名字でも名前でも、一字でも名字と名前から一字ずつでも。選ぶ字は一字でなくてもよい - 新しい字を作りだす
- 人生訓から文字を作ってもよい
上杉謙信や豊臣秀吉、織田信長のように人生訓や好きな言葉から用いる
ということで、自由な発想で考え、作り出してよいのです。
2.草書体からベースとなる文字を抜き出す
花押のベースとなる書体は「草書体」。選んだ字を草書体でどう書くのか?を調べるのだけど、「書道辞書」というアプリがあって、行書体、草書体などで書くとどんな形になるのか?をおしえてくれます。
アプリで候補の文字の草書体を調べてベースとなる書体というかデザインを絞り込む。
3.花押のデザインにしていくポイント
草書体から参考にするデザインを決めたら崩したり削ったりして花押にまとめていく。
その時のポイントは
- 一筆書きで書けるデザインにすること
花押は「サイン」。クレジットカードのサインのように流れるようにさらっと書けるように形を作る - 書き順は自由。意識しなくてもよい
- 「はね」と「はらい」で動きをつける
かっこよく見えるポイントなのです! - 筆の利点を使って太くしたり細くしたりと強弱をつける
- 二字の場合は一字目の上だけ、左側だけ、点だけ、のように部分を組み合わせても良い
- ある程度デザインが決まったら簡略化していく
びっちり文字が書かれているよりは「空間」が生まれたほうがデザイン的に良い。
ぎっしり要素があると同じ花押を書くのが大変。省略可することによって自分の中で「書きやすいパターンを見つけていく」というのが花押を考えるコツなんだとワタシは理解しました。
と、ここまで花押づくりで教えてもらったポイントを教えてもらったけれど、ワークショップの内容は開示不可とは言われていないので、ネットに掲載すること自体はNGではないと思う。
というか、この内容程度で花押がデザインできるとはとても思えん!そのくらいマイ花押づくりは楽しいけれど難しかったです。
花押づくり体験記
一通り説明を受けたところで花押づくり開始!「始めてください」の声でとりかかる。
まずはどの文字を使うか決めるのね。自分の名前から決めてみようかとアプリで検索してみる。
うーん。なんかいまいち。
名字と名前で使っている字を草書体を調べてみてもなんかピンとこない。その字を使って花押をつくイメージがわかない。
サイト名から漢字を取ってみよう!
そこでひらめいた。サイト名から花押を作ってみよう!
このサイトのドメイン名でもある「城」と「恋」を調べてみたら草書体のデザインがなかなか良かった。
よし、この二字に決めた!
二つの字をどう使うか?を考える
次は筆ペンで「城」と「恋」の二字を見よう見まねで書いてみる。
習字どころか硬筆さえ真面目にやってこなかったので、もう、何をやっても蛇のようににょろにょろと力の無い字が並んで、まるで手ごたえ無し。
特に「恋」の字はデザインとしては面白いのだけれど、自分が書くと話は別!
これ、書道のセンスがないとダメじゃね!?
ここで一度、やる気がなくなる。
「城」の字も「恋」の字もやればやるほど蛇にょろにょろがひどくなっていく。
試行錯誤してみるけれど、どちらの文字も最後は「蛇にょろにょろ」。
これ、デザインのセンスもないとダメじゃね?
Web業を生業とし、人の作ったバナーやWeb画面に対して物は言うけれど、自分で作るセンスは全くなし。
パワーポイントで作るプレゼン資料も色のセンスすら無くてデザイナーに「色の組み合わせを書式設定しておいてくれ」と泣きつく始末。
花押を作りながら一緒に仕事をしているデザイナーの顔が浮かび、「助けてくれ・・・」と思ったよ。
とりあえず、「城」と「恋」の文字をどう組み合わせようかを考える。
アプリを眺めながら「城」の字について考える。
子供の時に漢字を「へん」と「つくり」に分けて漢字を作る「カンジー」というカードゲームでよく遊んだのだけれど(後継では「漢字はかせ」というゲームがあるらしい)、そのゲームが頭に浮かんできて、「へん」と「つくり」に分けて考えてみようと思い付いた。
漢字アプリで見てみると「城」の字はどの字も「土」へんが自己主張が強い。
そうだ!「土」を活かして右側に「恋」の字を入れて一字にしてみよう!
これは良きアイデア。と思って作ってみたけど、なんかおさまりが悪い・・・。
あえて自由にやらず、制約をつくる!
講師の方たちは「自由に」「自由に」というのだけれど、芸術センスが一切無い人間には「自由にやる」ほど難しいことはない。「自由に絵を描いて」といわれると途端にフリーズするからね。
だったら制約をつければよいのだ!
徳川家康の花押の明朝体を使って、枠を作ってしまえ!
逆転の発想www
「二」の字で枠をつくることによって、色紙に書くときにも「どこに書けばよいのか」のおさまりがよくなり、その中だけをデザインすればよい。
ということで、枠を作って「土」と「恋」の字を当てはめてみた。
なんとなく花押に近づいてきた。
と思ったんだけど、何度も書くうちに「何が正解なのか自分でもよくわからない」事態に陥る。
あーあーあーあー。どんどんひどくなっていく。
同じ字を何度も書こうとして・・・ゲシュタルト崩壊。
ここで二度目。やる気がなくなる。
人はどん詰まって先に進まないとわかるとやる気がなくなるもので、このままいくと「ただ参加しているだけ」となってしまう。
と、そこに救世主(スタッフさん)が。
「なんかおさまりが悪いんです」と相談したら、バランスが良くなる書き方を教えてくれました。
やっぱり書道はできたほうが良い
バランスが悪い最大の原因は「二」の字の書き方だったようだ。
「二」の字は天(上の”一”)が反ってから上にあがり、地(下の”一”)は上に反って下がる。
「二」の字の書き方を変えればかっこよくなる!ということでスタッフの方が「二」を書いてくれてその中に「土」と「恋」を入れたら劇的に変わった!
おぉぉぉ。花押っぽい!!!
「二」の中は完全に一筆書きというわけではないけれど、”さらさらっと” なおかつ “力を入れるところは入れて”書いたらなんとかなったぞ。
「土」は一筆書きでそのまま「恋」に入る。「恋」は鍋ぶた「亠」を書いたらひらがなの「ふ」のように書き、下に「心」の「点」はあえて書かない。心の下部はダイナミックに「はね」させる!
この感覚を忘れないうちにと、すぐさまミニ色紙に書いてみるが、筆ペンのインクが無くなってしまった。
「二」の中がさっき書いたのとなにかが違う???
まずい。もう二度と書けない。
筆ペンを買って練習することを誓いました。まずは漢数字の「二」からだな。
これにて、マイ花押づくり完了。大切に使っていきます!
小学校低学年かな?そんな小さなお子さんでもちゃんと花押になっていて驚きました。
いやーとても楽しかった。書道の素養があったらさらに楽しめたのかもしれません。
来年もお城EXPOで「マイ花押を作ろう」ワークショップがあったら、参加してみることをお勧めします。自分のオリジナルの花押づくり、楽しいですよ!
4~5時間とじっくり時間をかけておしえてもらえます!